職場の若い女の子が自分の子どものために手紙を書いてほしいと頼んできた。
自分の字ではバレてしまうから、代わりに書いてほしい、と。
ただの手紙じゃない。
サンタからの手紙だ。
そうか、そんな時期だな。
独りぼっちの僕とはあまり縁のないイベント。
と思っていたら突然やってきた出番。
しかもサンタの役とは。
ほぼ主役じゃないか。
果たしてその役目を果たせるだろうか。
子どもからのサンタさんへ宛てた手紙と、クリスマス仕様のメッセージカードを受け取る。
英語で書いてほしい、読めなくてもいいから。
大事なのは雰囲気だから、と言われたが。
英語は得意ではないし、字も上手ではない。
けれど、サンタって字が上手いか?
そうだ、むしろ下手な方がリアル感あっていいかもしれない。
なんとか自分を納得させようと理由を探す。
何を書けばいい?
お母さんの言うことをしっかりと聞くようにとか、いい子にしててね、とか。
本番までおよそ1か月。
今日から僕は筆記体で書く練習を始めた。
サンタさんは普段何してるの?
トナカイのトレーニングだよ。
クリスマス本番に向けて大事なトレーニングをしているんだ。
みたいな話は伊坂幸太郎さんの絵本だったかで読んだような憶えがある。
今の僕は違う。
サンタさんは普段何をしているの?
お手紙を書く練習だよ。
きっとこのサンタからの手紙を受け取る子どもは、内容を読めないだろう。
それでも、意味のない文字列では意味がないはずだ。
どうせ書くならなにか仕掛けを残したい。
その子の記憶に残るかは知らないし、すぐに捨てられてもおかしくない。
でも僕は31歳にしてサンタになるチャンスを得たのだ。
ここでうまくいけばスカウトされるかもしれないのだ。
そう思うと筆記体の練習にも精が出る。
さぁ、頑張れ、自分。
立派なサンタクロースになるために。