読書メモ  少年と犬

  少年と犬 馳星周  ー 文春文庫

※個人的な読書メモでもあるので、ネタバレは多分に含まれます。

 小説全体を通しての「主人公」は表紙にもいる「多聞」といえると思うが、オムニバスの小説ととらえれば、章ごとに主人公が入れ替わり、それも性別、年齢、国籍も様々であった。男、泥棒、夫婦、少女、娼婦、老人、少年。それぞれの人生の一時を犬と過ごし、そして別れていく。それぞれの主人公たちのもとに現れたのには理由があったのだと思う。理由というよりは意味と言った方がいいかもしれない。最初の男の所へは守り神として、老人のところには看取るために。

 正直なところ、いわゆるお涙頂戴の動物小説かなとか偉そうに思っており、これまで読まずに来ていたところもありましたが、僕がただ愚かなだけでした。予想していたストーリーと全然違っていました。最初の男、泥棒までを読んだ時点で雲行きが怪しいぞと思った。随分と別れが序盤から立て続けにあり、おやおやと思いながら読み進めた。主人公と思われていた人間が順番に死んでいってしまう。だから「少女と犬」を読み進めるのに一呼吸置いた。冒頭から自殺をほのめかすような言葉を言っていて、この子もかぁ、、、と少しブルーになったからだ。でも多聞と出会うことになったら自殺という帰結にはならないのでは?と思う自分もいた。その予想は当たったのでほっとした。

 老人と犬。弥一は娘と会ってほしかった。会えないのだろうなとは思ったが、原因が病気でも、熊でもなく、食わせ物の誤射って、、、シチュエーションは異なるが、ごんぎつねを思い出した。いずれにせよ、打ちのめされた。

 少年と犬。この章だけはちょっと特別。物語の結びであるから、当然といえば当然だが、語り手の視点が厳密には少年ではなくて、少年の親だったと思う。だから章題からすると違和感を覚えたのかもしれない。そこに意図があったのかはわからないが、深読みすれば違ったものも見えてくるのかな。そこまでは今の時点では思いつかない。涙もろい僕はしっかりと328ページで一旦泣いた。

 

 とりとめもなく書いてきたが、あくまで読書メモということで。昔から読書感想文は苦手でした。大人になって文章を書くのは得意だと思っていたし、今感想文を書いたら、幾分マシだろうと思ったが、今日書いてみて、相変わらず感想文は書けないと思った。でもせっかくなので、これからも読書メモはつけていこうと思う。

 

好きな言葉、好きなシーン

P102 ガムのくだり

ー あんたの魂はまだ腐っちゃいない

P138 クリントに対しての紗英の感情

ー ただ、そこにいる。それだけで救われた思いがするのはなぜだろう。

(僕が書いた小説に似た言い回しを書いていて、なにか感情を共有できた気がして勝手に嬉しくなった。)

P181 少女の心情

ー 理屈ではわかっていても、悔いが消えることはなかった。

 

 

少年と犬 (文春文庫) | 検索 | 古本買取のバリューブックス

少年と犬 (文春文庫) | 馳 星周 |本 | 通販 | Amazon